酒蔵の奮闘記 減少する酒蔵とその生き残り戦略


新酒の仕込みは、一般的に10月から翌年3月の寒い時期に行われます。

これから忙しさを増す酒蔵ですが、実は大幅に軒数が減っているのをご存知でしたか?

酒造業には製造免許が必要ですが、国税庁によると、「清酒」の免許がある全国の酒蔵は22年度時点で1536か所と、50年前と比べ約6割も減少しています。

主に中小企業である蔵元では高齢化による後継者不在などが背景にありますが、理由はそれだけではありません。

厳しい環境に挑戦している酒蔵の奮闘ぶりについてご紹介させて頂きます。

パンチです

最後までどうぞご覧くださいね!

目次

日本の酒蔵が減少している背景

後継者不足

多くの酒蔵が後継者不足に悩んでいます。

日本酒の消費量が減少し、ビジネスとしての魅力が低下しているため、若い世代が酒造りに興味を持ちにくくなっています。

また、酒造りは体力を要する仕事であり、冬季の厳しい環境での作業が多いため、若者にとって魅力的な職業とは言えない側面もあります。

免許の新規発行停止


国税庁は「需給調整」を理由に、日本酒製造免許の新規発行を原則停止しています。

これにより、新たな酒蔵の設立が難しくなっています。

ただし、輸出向けに限り新規免許の発行が可能となっており、国内市場の縮小を補うための措置が取られています。

高齢化


酒蔵の経営者や杜氏の高齢化も深刻な問題です。

若い世代が酒造りに参入しないため、技術や伝統が失われるリスクが高まっています。


事業承継の難しさ


事業承継がうまく進まないケースも多く、経営理念やノウハウの引き継ぎが難しいことが原因です。

これにより、後継者がいても事業を継続することが難しくなっています。

これらの要因が重なり、日本の酒蔵は減少の一途をたどっています。

伝統を守りつつ、新しい市場や技術を取り入れることが求められています。

気候変動への対応

気候変動は酒米の生産に大きな影響を与えていて、以下のような影響が報告されています


収穫量の減少 

気温の上昇により、稲に高温障害が発生し、収穫量が減少することがあります。

品質の低下 

高温障害により、玄米の品質が低下し、高品質な白米の量が減少することがあります。

その結果、以下の通りお酒の品質や収量に悪影響を生じることとなります。

  1. アルコール度数の低下: アルコール発酵の効率が低下するため、生成されるアルコールの量が減少し、結果としてお酒のアルコール度数が低くなります。
  2. 風味の変化: デンプンが十分に糖に変わらないため、発酵過程で生成される風味成分が変わり、お酒の味や香りに影響を与える可能性があります。
  3. 酒粕の増加: アルコール発酵が効率的に行われないため、未発酵のデンプンが残り、酒粕の量が増えることになります。これにより、酒造りの効率が低下します。
  4. 品質のばらつき: 高温障害の影響を受けた酒米を使用すると、製品ごとの品質のばらつきが大きくなる可能性があります。

これらの影響を最小限に抑えるためには、酒米栽培にあたって適切な温度管理が必要となり、収穫した酒米の選別という工程がより重要となります。


栽培適地の変化 

気温上昇に伴い、酒米の栽培適地が北上する傾向があります。

これにより、従来の栽培地域では品質が低下する可能性があります。

品種改良の必要性 

気候変動に対応するため、温暖化に強い品種の開発が進められています。

例えば、山田錦の後継品種として「予3」という品種が開発されており、気温上昇に強い特徴を持っています。

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日本の酒蔵や政府の取り組み

人口が減少して市場が徐々に縮小している国内市場ですが、観光立国 日本の食文化の魅力としてインバウンド需要を満たす「SAKE」は重要なポジションを確立しつつあると言って良いでしょう。

また「SAKE」の魅力に魅せられた観光客が帰国後も楽しめるように、輸出にも国の支援の下、積極的に取り組んでます。

インバウンド需要の取り込み

酒蔵ツーリズム

日本各地の酒蔵を訪れる観光プログラムが注目されています。

酒蔵ツーリズムは、酒造りの過程や歴史を学びながら、地元の郷土料理や伝統文化を楽しむことができる旅行スタイルです。

これにより、地域経済の活性化や酒蔵の事業継続に寄与しています。


ユネスコ無形文化遺産登録

日本政府は「伝統的酒造り(日本酒、焼酎、泡盛など)」をユネスコ無形文化遺産に登録することを目指しています。

これにより、日本酒の知名度が向上し、インバウンド需要の増加が期待されています。

海外への日本酒の輸出

輸出促進キャンペーン

国税庁やクールジャパン機構などが中心となり、日本酒の海外PR活動を積極的に行っています。

これにより、輸出金額はこの10年間で約3倍に増加しています。


政府の支援

政府は「國酒」をはじめとする日本産酒類の輸出促進に対し、オールジャパンでの支援を行っています。

これには、関係府省が連携して行う輸出戦略の策定や、海外市場でのプロモーション活動が含まれます。

市場調査と戦略策定

日本産酒類の輸出拡大に向けた市場調査が行われており、各国の消費者の嗜好や市場の特性を把握した上で、最適な輸出戦略が策定されています。

これらの取り組みにより、日本酒の需要拡大と酒蔵の持続可能な経営が期待されています。

日本酒の魅力を世界に広めるための努力が続けられています。


1カップ800円でも売れるヒット商品 SAKEICE

そのようなマーケティングが功を奏しているのが台湾向け商品のSAKEICEです。

こちらが台湾で初めてお披露目されたのは2022年11月ですが、日本酒への関心が高い地域での成功を見込んで台湾に進出し、需要が急増しています。

台湾では1カップ約800円で13種類を展開しておりますが、現地ではライチやレモンなどのフルーツ系フレーバーが人気です。

2024年9月には現地法人を設立し、現地製造を開始し売り上げ目標は1000万円とのこと。

今後は台湾をハブにアジア全域への展開を目指しています。

2023年より始まった「酒屋大賞」の役割

どこかで聞いたことのある名前ですが、もしかすると日本の酒文化を盛り上がる決定打になるかも知れない「酒屋大賞」は、日本全国の酒販店員が審査する新しい形式の日本酒アワードとして2023年に初めて開催されました。

このアワードのコンセプトは、酒販店員が心からおすすめしたい日本酒の酒蔵を選び、日本酒市場を活性化させることを目的としています。

2023年の受賞酒蔵は以下の通りです:

  • GOLD: 今西酒造(奈良県) – 出品酒:「みむろ杉 ろまんシリーズ 純米吟醸 山田錦」、「みむろ杉 ろまんシリーズ Dio Abita」、「みむろ杉 木桶菩提酛 2022酒造年度 南木桶-壱号」



  • SILVER: 花の香酒造(熊本県) – 出品酒:「産土 (うぶすな)2022山田錦|二農醸」、「産土 2022山田錦 自然農法|五農醸」、「産土 2022穂増|四農醸」


  • BRONZE: 阿部酒造(新潟県) – 出品酒:「あべ 純米吟醸」、「FOMALHAUT SPARK2022」、「上輪新田2022ビンテージ」
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このアワードは、酒販店員が日本酒の流通のプロフェッショナルとしての視点から審査を行います。

そして、消費者に新しい酒蔵を知ってもらうきっかけをつくることを目指しています。

2024年も「酒屋大賞」開催決定!

2023年からのアップグレード点として、以下のような変更や改善が行われています:

  • 予選のWEB投票期間の延長: 2024年の予選は9月3日から9月30日までの約1ヶ月間行われ、より多くの酒販店員が参加できるようになりました。
  • 本選の会場拡大: 本選は11月18日(月)〜20日(水)に大阪と東京の2会場で開催され、より多くの参加者がアクセスしやすくなっています。
  • 一般消費者向けの懇親会: 2024年の本選では、一般消費者も参加できる有料の懇親会が東京会場で開催され、ノミネート酒蔵のお酒を楽しむ機会が提供されます。
  • ノミネート酒蔵の選出方法の改善: 予選では、酒販店員が国内販売された市販酒の中から3本を選び、WEB投票を行う形式が採用され、より公平で透明性の高い選出方法が実現されています。

これらのアップグレードにより、2024年の「酒屋大賞」はさらに多くの人々に日本酒の魅力を伝えることができるイベントとなっています。



日本酒の瓶の新たな取り組み

瓶の規格変更


日本酒の瓶の規格をワインのサイズに合わせることで、海外での保管や輸送の手間を軽減し、輸出を促進する取り組みを行っている酒蔵もあります。

新たな取り組み

酒米の改良や新しい品種の開発など、今までになかった高品質な純米酒や純米吟醸酒の実生産への準備が進んでます。

純国産米アルコールの使用 

従来の無味無臭な醸造アルコールに代わり、特徴的な香味を持つ「純国産米アルコール」を開発し、それを使用した日本酒が登場しています。

例えば、「生粋地酒プレミアムマイスター大吟醸」は、純国産米アルコールを使用した高品質な大吟醸酒です。


地理的表示(GI)の活用 

地理的表示(GI)制度を活用し、特定の地域で生産された高品質な日本酒を保護し、ブランド価値を高めています。

これにより、地域特有の風味や品質を持つ日本酒が市場に提供されています。

酒米の改良と新しい品種の開発 

高品質な酒米の改良や新しい品種の開発が進められています。

  1. 出羽燦々(でわさんさん): 山形県で育成された酒米で、「美山錦」と「華吹雪」の交配から生まれました。寒さに強く、吸水性が良いため、麹菌が住みやすく、醪に溶けやすい特徴があります。
  2. 百万石乃白(ひゃくまんごくのしろ): 石川県で育成された酒米で、「山田錦」の優れた特性を持ちながら、倒伏しにくく、収穫時期が早いという特徴があります。
  3. Hyogo Sake 85: 兵庫県で育成された酒米で、心白が多く含まれており、アルコール発酵がバランスよく進む特性があります。また、高温への耐性も備えています。
  4. 越神楽(こしかぐら): 新潟県で育成された酒米で、「山田錦」と「北陸174号」の交配から生まれました。栽培特性と醸造適性の両立を目指して開発されました。
  5. 楽風舞(らくふうまい): 清酒と泡盛の双方に適する酒米で、耐倒伏性が高く、栽培しやすい品種です.

最新技術の導入

以下の酒造会社では、「超精密ろ過技術」や「無菌充填技術」などの最新技術を導入することで、蔵元でしか味わえなかったしぼりたての風味をいつでもどこでも楽しめるようになっています。


白鶴酒造(はくつるしゅぞう)
: 白鶴酒造は、最新のろ過技術と無菌充填技術を導入し、しぼりたての風味を保ったまま日本酒を提供しています。

大関(おおぜき): 大関も同様に、超精密ろ過技術と無菌充填技術を活用して、高品質な日本酒を安定して供給しています。

月桂冠(げっけいかん): 月桂冠は、超精密ろ過技術や無菌充填技術を導入し、蔵元でしか味わえなかったしぼりたての風味をいつでもどこでも楽しめるようにしています。




醸造方法の工夫

吟醸造りなど、素材や製造方法を吟味しておいしい日本酒を造り出す工夫がされています。

これにより、香り高く、味わい深い日本酒が生まれています。

これらの取り組みにより、高品質な純米酒や純米吟醸酒が開発され、消費者に提供されています。

それ以外にも…

例えば、広島の「酒商山田」では、日本酒とワインの融合を目指した新感覚の熟成酒「FUSION」を開発しています。

この取り組みでは、ワイン樽を使用して日本酒を熟成させることで、ワインユーザーにもアピールしています。

また、一般的に日本酒の瓶のサイズは一升瓶(1800ml)や四合瓶(720ml)が主流ですが、近年は300ml容量の二合瓶や、一合瓶などの飲みきりサイズも増えています。

これにより、海外市場でも取り扱いやすくなり、輸出の増加が期待されています。

このような取り組みを通じて、新たな日本酒の魅力を国内外に広める努力が続けられています。


今後、予定されている日本酒のイベント情報

にいがた酒の陣 2025

開催日: 2025年3月8日(土)・9日(日)
場所: 朱鷺メッセ(新潟市)
概要: 新潟県内の酒蔵が一堂に会する日本最大級の日本酒イベントです。多くの日本酒ファンが集まり、様々な銘柄の日本酒を試飲することができます。

大阪・関西万博 2025

開催期間: 2025年4月13日(日)〜10月13日(月)
場所: 夢洲会場(大阪)
概要: 大阪・関西万博では、日本酒を含む日本の伝統文化や食文化を紹介するイベントが多数予定されています。

日本酒フェア 2025

開催日: 2025年7月5日(金)・6日(土)
場所: サンシャインシティ(東京・池袋)
概要: 世界最大の日本酒イベントで、全国の多彩な銘酒の試飲・販売、鑑評会入賞酒のきき酒などが行われます。

これらのイベントは、日本酒の魅力を広めるための素晴らしい機会です。ぜひ参加してみてください!

また2024年にはこちらのイベントも企画されていますので、チェックしてみて下さいね。

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酒蔵承継ビジネスの取り組み

後継者不在による廃業を減らすため、金融機関などの働きかけに応じて異業種が酒蔵事業を承継するケースが増えて来ています。

  • 地域みらいグループ: 地元金融機関の働きかけがきっかけで、福岡市のゼネコン「地域みらいグループ」は1688年創業の「窓乃梅酒造」を2020年にグループ化し、新銘柄「佐嘉」を製造。最新の醸造設備を導入予定です。
  • 友桝ホールディングス: 佐賀県小城市の企業で、京都府の「ハクレイ酒造」を引き継ぎ、日本酒のスパークリング飲料を共同開発しています。
  • 光栄菊酒造: 小城市の酒造会社で、テレビ関連の仕事から転身した日下智社長が廃業予定の酒造会社を継承し、復活させました。
  • 日本酒キャピタル: 東京の企業で、鹿児島県霧島市の日当山醸造を傘下に入れ、販路拡大で売上高を倍増させました。

これらの企業は、後継者不在や製造免許の課題を克服し、伝統ある酒蔵を守りながら新たな挑戦を続けています。

引用元:読売新聞オンライン


まとめ

酒蔵を取り巻く環境は、まさに日本の産業が直面している困難の集合体で、食を扱う産業の中でも一番難易度が高い分野ですね。

その中で数少ない追い風であるインバウンド需要や輸出産業での成長にかけて、産業の生き残りのために異業種が参入し技術と文化の伝承に取り組んでいる姿を見聞きすると応援したくなりますね。

これから冬を迎え、新酒を楽しむイベントなどに接する機会も増えてきますね。

是非そのようなチャンスには積極的に出かけて、生産現場の皆さんと直接お話することで応援の機運を高められたら素敵ですね。

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また「日本ワイン」と言われる原料となるブドウを日本で栽培したワインも日本各地で生産されています。

こちらの記事にまとめておりますので、宜しかったらご覧くださいね。

最後までご覧頂き有難うございました。





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