大和証券グループ本社が、証券業界とは異なる分野であるパプリカ生産に乗り出していることが注目を集めています。この取り組みは、農業と金融の融合を目指す新たなビジネスモデルの一環として位置付けられています。
「国産パプリカ」の現状について
国産パプリカの収穫時期
国産パプリカの収穫時期は、一般的に5月から9月までです。この時期に新鮮なパプリカを手に入れることができます。
国産パプリカの自給率
国産パプリカの自給率は、全体の流通量の約5〜10%程度とされています。残りの大部分は輸入に頼っており、そのうちの約8割が韓国産です。
日本国内では宮城県や茨城県、大分県などが主要な生産地として知られています。
大和証券グループの取り組み 生産拠点の整備
大和証券グループは、主に2つの拠点でパプリカを生産しています。
- 静岡県磐田市:「スマートアグリカルチャー磐田(SAC磐田)」という農園を2021年10月に買収し、運営しています。
- 北海道釧路市:「北海道サラダパプリカ(HSP)」という会社に2024年4月に出資し、経営に参画しています。
生産規模と特徴
- SAC磐田では、3ヘクタールの敷地に2棟の巨大なビニールハウス(高さ6メートル)を設置してパプリカを栽培しています。
- 両拠点を合わせた年間生産量は1,100トンを上回り、国産パプリカの生産量としてはトップクラスとなります。
- 通年での安定供給を目指しており、磐田と北海道の気候の異なる2拠点を活用しています。
生産技術
SAC磐田では、最新のスマート農業技術を導入しています。
- コンピューターによる日照量や気温の常時管理
- 最適な植物生育環境の調整
- オランダの大規模施設園芸をモデルとした生産方式
経営戦略
大和証券グループは、農業を新たな投資対象として位置付けています。
- 低収益が続いてきた第一次産業の農業の将来性を見据えています。
- 投資とコンサルティングの事業の堅実な対象として農業を捉えています。
- 「農業×金融」の視点から、収益性の高い農業の実現を目指しています。
課題と展望
- SAC磐田は当初、販売戦略と生産のミスマッチなどの課題がありましたが、現在は継続的な黒字経営を確保しています。
- 大和証券グループは、農業の「負けのスパイラル」を断ち切り、新たなビジネスモデルを構築しようとしています。
パプリカ生産への挑戦の背景
大和証券グループがパプリカ生産に乗り出した主な理由は以下の通りです。
- 農業の将来性への着目:低収益が続いてきた第一次産業の農業に将来性を見出し、金融業界の知見を活かして新たな価値を創造する可能性を感じたためです。
- 投資とコンサルティング事業の新たな対象:農業を投資とコンサルティング事業の積極的な対象として位置付け、金融と農業を融合させた新しいビジネスモデルの構築を目指しています。
- 現実性の高い農業の実現:「農業×金融」の視点から、効率的で収益性の高い農業経営を目指しています。
- 農業の「負けのスパイラル」打破:農業の「負けのスパイラル」を断ち切り、新たなビジネスモデルを構築しようとしています。
- 大規模投資の可能性:野菜工場や水産工場の建設には大規模投資が必要となるため、大企業や投資家を募る可能性があります。
生産設備とファンドの活用
大和証券グループは、パプリカ生産設備を「農業ファンド」に応用することを検討しています。
ファンドは、個人を含めた投資家から集めた資金の受け皿となり、効率的な資産運用を狙ってお金を出し、出資に応じたリターンを得られる仕組みです。
このようなファンドの仕組みを農業の生産設備にも採用すれば、野菜生産に伴う収益の一部を投資家に配分できるようになります。
農業と金融の掛け合わせ
大和フード&アグリの久枝和昇社長は、このような農業と金融の掛け合わせは「日本で成長する市場だ」と力を込めています。
大和フード&アグリは今年4月に「北海道サラダパプリカ」(北海道釧路市)への出資を発表し、冷涼な気候のパプリカ生産地を確保しました。
静岡県磐田市の生産設備とともに稼働させることで、通年での安定供給が見通せるようになります。
コンサルティング業務の展開
もう一つの大きな狙いは、農作物生産や食の分野のコンサルティング業務です。
大和フード&アグリはパプリカを作ることで培ったノウハウを基に、農業への新規参入を目指す企業に助言するコンサルティング業務を2023年6月に開始しました。
これまでに手がけたコンサルティング業務は大企業向けが中心であり、資金を自社で用意できる大企業に助言し、参入は自らのお金で挑戦してもらっています。
未来への展望
大和証券グループが農作物生産の当事者として思い描く未来は、大規模な事業者による効率的な農業です。
収益が上がり、就農者が増え、日本の大きな課題である食料安全保障の強化につながると期待しています。
個人投資家にとっては株式や債券などの有価証券に加え、農業ファンドも投資対象としてより一般的に検討されるようになる日もそう遠くないかもしれません。
このように、大和証券グループは金融業界の知見を活かしながら、パプリカ生産という新たな分野に挑戦し、農業と金融の融合を目指しています。
豊田通商、宮城県栗原市でのパプリカ生産プロジェクト
豊田通商の取り組みとは?
パプリカ生産をきっかけに農業へ参入した大手資本は大和証券が初めてではありません。
豊田通商は、トヨタグループの総合商社であり1948年に設立されました。
多岐にわたる事業展開をする中で、食品事業も展開しており、宮城県栗原市においてパプリカの生産を行っています。
このプロジェクトは、地元農家と共同で2008年7月に設立した農業生産法人「ベジ・ドリーム栗原」を通じて行われています。
今後の展望
豊田通商はトレーサビリティ管理を徹底し、安心・安全・高品質なパプリカを生産しています。
この取り組みは、地元農家との協力を得ながら進められており、農協や農家との対立を避けるための戦略的な選択がされています。
豊田通商のパプリカ生産は、国内農業の未来を占う試金石とも言える取り組みです。今後も地元農家との協力を深め、持続可能な農業の実現を目指していきます。
三井物産のパプリカ事業
大和証券グループや豊田通商と趣は少し異なりますが大手商社、三井物産もパプリカ事業に参入しています。
三井物産は、中国の野菜種子会社「湖南湘研種業」への出資を通じて、パプリカを含む野菜の種子事業を展開しています。
三井物産は、ジャパン・ベジタブルシード株式会社と共同で高品質・高付加価値なパプリカの種子を開発・販売しています。
まとめ
このように、大和証券グループは最新技術を駆使したスマート農業を推進し、豊田通商は地域との協力を重視した生産体制を築いています。
それぞれのアプローチには独自の強みがあり、異なる視点からパプリカ生産に取り組んでいます。
従来、日本の農業については零細な家族経営農家が中心となった構造的な問題があり、そこに異常気象や少子高齢化が相まって、儲からない事業の代表格となっています。
その復活には今回紹介したような大資本の企業グループの参入とスケールメリットによるコスト削減が不可欠です。
もはや個人経営の小規模な農業は「余剰資金と余暇を使った趣味」として適度な距離感を保つことが経済的かつ精神的な健全性を維持する最後の手段であると考えます。
早期退職を契機に新規就農をお考えの方が皆さんの周りにいらっしゃいましたら、是非こちらの記事をご紹介ください。
最後までご覧いただきありがとうございました。
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