海外向け販売急増による抹茶製品の品薄状態について

例年11月は抹茶の新茶が出回る時期ですが、あるお知らせに気が付きました。

「老舗茶舗 一保堂」のホームページによると2024年10月より一部商品の販売を休止しているそうです。

その理由は…

「海外からの観光客のお茶の爆買い」

「抹茶の海外輸出量の急増」が原因のようです。

今回はこの点についてお話させて頂きたいと思います。

パンチです

最後までご覧くださいね

目次

一保堂における一部商品(抹茶)の販売休止について

冒頭お話させて頂いた老舗茶舗 一保堂の案内は以下の通りです(引用元:一保堂ホームページ)

一部商品(抹茶)の販売休止について(2024年10月31日更新)

重要なお知らせ

抹茶につきまして、昨今の需要の高まりから製造が追いつかず品薄が続いております。

このたび、一部商品につきまして販売を一時休止いたします。

いつもご愛飲のお客様には大変ご不便をお掛けいたしますが、何卒ご理解賜りますようお願い申し上げます。

販売休止商品と期間

商品名休止期間
雲門の昔40g缶2024年10月19日~当面(年明け以降販売再開予定)
明昔40g缶2024年10月19日~当面(年明け以降販売再開予定)
オーガニック抹茶20g缶2024年10月19日~当面(年明け以降販売再開予定)
KANZA(閑坐)20g缶2024年10月19日~当面(年明け以降販売再開予定)
KUON(久遠)20g缶2024年10月19日~当面(年明け以降販売再開予定)
風味の友100g袋2024年10月19日~当面(年明け以降販売再開予定)

また、上記以外の銘柄につきましても、在庫数がごくわずかとなっております。

お一人様の購入可能数を制限させていただいておりますので、何卒ご了承くださいませ。

各商品ページにて「在庫なし」と表示される場合は、次回入荷までお待ちいただけますようお願いいたします。

詳細はこちらをご覧ください。

一保堂茶は以前紹介させて頂いている通り海外展開にいち早く取り組んだ茶舗です。

その他の茶舗も次世代への生き残りをかけて様々な戦略で厳しい環境の中でチャレンジを続けています。

そんな奮闘ぶりについてまとめた記事がこちらとなりますので是非ご覧ください。

他のお店での抹茶製品の販売制限について

同様の販売制限が確認できただけでも、以下の3社で行われています。

  1. 丸久小山園:
    • 丸久小山園でも抹茶の需要が急増しており在庫不足が続いています。
    • そのため、2024年11月11日から一部商品の販売制限が実施されています。
  2. 葵製茶:
    • 葵製茶でも、抹茶の在庫が限られているため、全商品に対して販売制限が設けられています。
  3. 西条園:
    • 西尾の老舗「あいや」の高級抹茶を贅沢に使用した「抹茶ガトーショコラ」を2024年10月8日から販売休止してます。

詳しくは各社のホームページをご覧ください。

またこの他にも日本中の和菓子屋さんで抹茶饅頭や抹茶ロールケーキなどの販売休止が増えています。

「スタバショック」について

抹茶の品薄の原因はいくつかありますが、今回は海外向け需要の増加についてお話させて頂きます。

2000年代初頭、スターバックスの日本の店舗で開発された「抹茶ラテ」や「抹茶フラペチーノ」がアメリカでも導入されると、健康志向の高まりとともに人気が急上昇しました。


その結果、抹茶の需要が急増し日本からの輸出量が増加したのです。

2010年中ごろになるとイギリスやフランスでもスターバックスの抹茶ドリンクが人気を集めました。

これにより世界的な抹茶需要が高まり、国内での品薄状態が続きました。

2020年代に入ると新型コロナウイルスの影響で健康志向が更に高まったアメリカで抹茶の需要が急増しました。

これにより国内での抹茶製品の供給が追い付かない状況となり「スタバショック」と言われてます。


そして現在、抹茶の生産量に占める海外への輸出比率は約67.2%となります。

つまり…日本で消費される抹茶の約2倍が海外に輸出されていることになります

この事実、皆さんご存知でしたか

2021年抹茶の生産量と輸出比率(東洋経済オンラインより引用)

  • 日本国内消費量:年間約4,000トン
  • 海外輸出量:年間約8,000トン

抹茶の健康効果やその独特の風味が注目され、特に海外市場での抹茶ブームが続いてます。

アメリカに関しては既に最初のブームから20年が経過してます。

もう既に「甘~い抹茶飲料」はアメリカの食文化として定着していると言っても良いでしょう。

また外国人観光客が来日時に抹茶を大量に購入しているケースもあって品薄に拍車が掛かってるのです。

抹茶の品薄は気候変動や生産者の高齢化による生産縮小と同等以上に、海外市場の動向が影響しているのですね。


老舗抹茶メーカー「あいや」の奮闘

愛知県西尾市で年間出荷量の半分を輸出している「株式会社あいや」について、東洋経済社から3年前に出された情報をベースに紹介致します。

地元の西尾地区は昔からお茶の生産が盛んで、「三河式てん茶機」という「抹茶専用の茶葉乾燥機」が開発された1930年代以降、抹茶の生産地として飛躍的に成長したということです。

引用元:株式会社あいやホームページ

同社は1888年創業で、1983年に米国向け輸出を開始し、2001年には米国に現地法人を設立し、その後もオーストリア、ドイツ、中国、タイに現地法人を展開しています。

2020年度は国内・輸出がちょうど50%ずつで、輸出先は「アメリカ、ドイツ、オーストリア、フランス、タイ、インドネシア」などです。

特に「音楽の都ウィーンが首都のオーストリア」向けは、コロナ禍で巣ごもり需要が増え、抹茶、煎茶類の家庭用商品の売り上げがアップしました。

広報担当者によると、オーストリアの現地法人の売り上げは、それまでは年次5%の売上アップだったのが、前年度比120%と2倍以上に飛躍的に売上アップしたそうです。

抹茶が受け入れられている理由は、ヨーロッパのメガトレンドにマッチしているからです。

メガトレンドとは以下の4つです。

  1. 環境にやさしいこと
  2. 身体にやさしい(健康に良い)こと
  3. ビーガン、ベジタリアンというライフスタイル
  4. SNSなどを通じたおしゃれなライフスタイル

ところで日本から輸出している分のすべてがオーストリアで消費されているわけではないそうです。

オーストリア経由でチェコ、スロバキア、ポーランド、ハンガリーなどの東欧・中欧圏に流れているそうです。

オーストリアやドイツでは有機栽培茶へのこだわりが強く、消費者の有機栽培食品への理解と需要が高いのが特徴です。

最近は、日本の生産者もヨーロッパにおける有機食品の需要の高さに合わせた商品開発や栽培を進めています。

実際、茶の輸出量に占める有機JASの割合は、米国向けが約20%であるのに対しEU向けは約84%と圧倒的に有機が多いようです(2019年:農水省調べ)。

今後、オーストリアを起点にこうした動きが東欧・中欧圏に拡大していけば、日本の生産者にとって新たなビジネスチャンスとなる可能性があります。

「お茶はペットボトル」という文化が定着した国内市場よりも、おしゃれな抹茶文化が広まり、高品質の有機茶へのニーズが高い海外市場に活路を見出す動きが加速するのではないでしょうか。

高齢化した日本の生産者が代替わりしていく中で、国内から海外に目を向ける後継者が増えていく。

ウィーンをはじめとする欧米での日本茶・抹茶人気の高まりを見るにつけ、そんな未来像が浮かんできます。

引用元:東洋経済オンライン 一部改編

3年前から欧州ではヘルシーな食文化やファッションとして「お茶文化」が浸透していたということですね。

オーストリア・ドイツで受け入れられている商品、イコール高品質を担保する「ブランド」となっており、欧州各国へその文化が広がって消費が拡大しているのですね。

「株式会社あいや」が欧州ではその2ヶ国にだけ現地法人を立ち上げられたのは十分な市場調査の賜物でしょう。

海外向け売上アップの要因分析

百聞は一見に如かずです。 まずは緑茶の輸出売上の実績の推移をご覧ください。

ご覧の通り、米国向けの輸出が金額ベースで半分を占めており、粉末状のお茶、つまり抹茶の人気が高いようですね。

一方台湾では粉末以外、つまり「リーフ茶」の需要が高いようですね。

これだけ急激に売上が伸びたのは、2013年12月に「和食」がユネスコ無形文化遺産に登録されたことが大きかったようです。

老舗の辻利茶舗は2010年の台湾を皮切りに欧州にはイギリス・ロンドンなど合計9か国に出店しており、このような販売戦略も相まって抹茶も「matcha」として徐々に浸透していったということですね。


このチャンスをつかんで世界的にヘルシーな日本食がブームとなった陰には、「有機栽培」と称される「残留農薬基準をクリアした製品」の供給を可能とされた生産者のご努力があったことでしょう。

国内生産では問題ないとされている農薬使用方法が、他の国では認められないことは農業分野ではよくあることです。

自分も農業に携わっておりますが、既存の生産・管理手順の見直しを異常気象の真っ只中でトライするのは大変なご苦労とプレッシャーがあったと思います。

お茶に関しては農地を拡大して輸出向けの栽培を始めるには初期投資がかかりますし、本格的な収穫が出来るようになるまで「5年」の年月がかかります。

もし長年培ってこられた生育手順を変更したことによりお茶の木が病気や害虫の影響で枯れてしまっていたら、それまでの苦労が水の泡となり、更にその後5年間無収入となるかも知れなかったということです。

関係者の皆さんのご努力が輸出金額の右肩上がりという素晴らしい結果に結びついて本当に良かったです。

海外向けの生産が軌道に乗ればお茶の木は長寿命です。

今後順調に行けば数十年にわたって、海外のお客様が喜ぶお茶をお届けする体制が整ったと言えるでしょう。

追記 2024年11月17日

アメリカが世界を牽引する日本食ブーム、米国における緑茶については「伊藤園の進出成功」が大きなポイントになってます。

世界の中でお茶をストレートで飲む国は日本以外では中国の一部地域に限られていたということで、アメリカでも緑茶を飲むときには砂糖やミルクを入れるのが普通だったそうです。

そんな市場で無糖の緑茶を米国で広めたのが伊藤園の「お~いお茶」です。

伊藤園はお茶関連会社としては歴史が浅い1966年設立の東京本社の飲料メーカーですが、いち早く1987年には早くもハワイでの事業を開始しました。

その手法も実にユニークです。

海外拠点においては輸送コストや環境への影響を減らすことを目指す「クリーンイメージ」の定着をグローバル展開では重視しており、現地のハワイでお茶の生産を行っているそうです。

この「茶産地育成事業」は他社には真似できない戦略の一つですね。

また販売力強化のためコーヒー会社であった米国DISTANT LANDS TRADING CO.社を2015年に約100億円で買収しています。

販路拡大の中で伊藤園は、リーフ(茶葉)とドリンク(飲料)の総合提案を行っています。

特に「お~いお茶」ブランドでは、リーフの価値を高めることで、その価値をドリンクにも付与しています。

このような総合的なアプローチも、他の飲料メーカーにはない独自の展開ですね。

この先見性と努力が実を結び、伊藤園グループの中で米国売り上げは2024年3月期決算で450億円となっておりますが、海外市場で消費されているものは現地生産のモノです。

日本市場における抹茶不足とは直接関係ありませんが、海外でのお茶ブームのきっかけとなった伊藤園の活躍ぶりについて報告させて頂きました。

追記 2024年11月21日

抹茶の売れ行きが好調なことは喜ぶべきことなのですが、「転売ヤー」の参入が確認されたようです。

転売防止のためオンラインショップの閉鎖や販売制限されるところが相次いでいるようです。

本来、生産者や関係者の皆さんが受け取るべきであった「抹茶が生み出した利益」を、

何の努力もしていない第3者が掠め取るのは、やり場のない怒りを感じます。

そんな気持ちで点てるお茶では穏やかな心を取り戻せそうにないです。

資本主義のルール上ではOKであるのは分かっていても、コンサートやスポーツ観戦のチケットにしても、感染症拡大時のマスクにしても、人の弱みに付け込む商売は好きになれないですね。

その結果、抹茶を必要としている方の手元に商品が届きにくくなるような事態となってることは悲しいことです。

一保堂茶舗も「年明け以降販売再開予定」とコメントされております。

我々、お茶の愛好家が出来ることは、このメッセージを信じて「転売ヤーからは絶対買わないこと」です。

そして生産者や小売店にお願いしたいのが、転売ヤーが手を出せないくらい「値上げ」して、お茶関連企業が利益を確保して欲しいです。

その結果、国内向け売上が減少したとしても、円安メリットを享受する外国人向け販売が増加して、少なくともお茶の関係者の利益は確保され、次世代に茶文化はバトンタッチできます。

需給バランスが崩壊したことに端を発する抹茶不足は、このまま継続します。

適正な価格に正規業者が値上げすることでコメの転売は最小限に抑えられたと理解しております。

転売ヤーに「抹茶の転売は儲からない」と理解させ、お茶市場から退場させない明るい未来は見えません。

お茶の玉宗園や今村芳翠園のような老舗が自己破産しているのです。

賢明な消費者ならご理解頂けるものだと思いますが、皆さん、どう思われますか?

どうぞコメント欄よりご意見・ご感想をお聞かせください。

まとめ

2021年に東洋経済社で予見されていた「株式会社あいや」の輸出シフトは「大当たり」してますね!

そして現在、生産が追い付かないほど海外で抹茶が売れているならば、日本経済として歓迎すべき「商売繁盛」のニュースです!


マグロなどの水産資源が世界的に人気となり、一方で日本経済には元気がないために「買い負け」している現象が「抹茶」でも見られているということなのでしょう。

少子高齢化で縮小しており、且つペットボトルが主流となった日本市場よりも、高付加価値の有機栽培した抹茶を高く評価してもらえる魅力的な海外市場があるのであれば、そちらに活路を見出していくのは、経営者として当然の生き残り戦略であろうと思います。

「今村芳翠園」や「お茶の玉宗園」などの老舗企業が相次いで自己破産しているのです。

仮に「輸出を優先したために国内市場で抹茶が品薄になっている」としても茶舗の社員をはじめ関係者の方が頭を下げられる必要は一切ないと思います。

「日本市場を軽んじている」などと非難するような方は、読者の方にはいらっしゃらないものと信じてます。

むしろ次世代へ茶文化を引き継ぐための難しい選択をされて成功へ導かれた経営判断と現場の皆さんのご努力に拍手を送りたいと思います。

少なくとも生き残りのために懸命にご努力されているお茶の生産・販売に関わる方たちや、日本文化を楽しんで頂いている外国人観光客の皆さんの気分を害するような言動を慎むのが日本人の持つべき品格だと願います。

皆さんはどう思われますか?

皆さんから頂いているコメントが執筆活動の励みになっております。

是非、コメント欄から皆さんのお考えやご感想をお聞かせ下さい。

パンチです

最後までご覧頂き
有難うございました


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