緑茶飲料のトップランナーといえば、伊藤園の「お〜いお茶」。 続いてサントリーの「伊右衛門」も、京都・福寿園監修や茶葉の産地表示などを前面に押し出し、ブランドの“語り”を強化してきました。 その中にあって、「綾鷹」は少し異なる道を歩んできました。
発売当初から産地や監修元を強く語ることなく、「急須で淹れたような濁り」にこだわり、“語らないお茶”としての立ち位置を選んだ綾鷹。
しかし、2025年春。 その綾鷹が、ついに“語り始めた”のです。
綾鷹というブランドが語らなかった理由
かつて、綾鷹は“語らないお茶”でした。
茶葉の産地を前面に出すこともなく、監修元の有名老舗「上林春松本店」の名も控えめにもほどがあるでしょ!っていうほど控えめです。実は私、恥ずかしながら、この記事を書き始めてから綾鷹のラベルに監修茶舗の記載があったことに気が付きました。
「急須で淹れたような濁り」を象徴に据え、13年前のTVCMでは池田昌子さんの静かなナレーションがその印象を深めていました。
池田昌子さんは中高年世代の皆さんには「銀河鉄道999」のメーテル役の声優さんとして広く知られていますね。高貴で優しく、母性を感じさせる温かみのある声質が「料亭で味わうお茶のような綾鷹の特別感」を際立たせ、CMの雰囲気を見事に演出しています。
板前さん百人に聞きました。 急須で淹れた緑茶に最も近いのはどれ? 選ばれたのは綾鷹でした。
濁りは、うまみ。
次は、あなたがお試しください。
味や香りの体験を“説明する”のではなく、ただそこにある余韻で語る。それがかつての綾鷹の戦略だったのです。
続くCMシリーズでは「日本全国綾鷹試験」の受験者は、舞妓・芸妓100人に!でしたね。
懐かしくなった方はYou Tubeチャンネルで「綾鷹 TVCM 池田昌子」と検索すると、あのお声が今でも「お聞き」いただけますよ!
誕生の背景にあった戦略と独自性
綾鷹が誕生したのは2007年。コカ・コーラ社にとって初の緑茶ブランドとして投入されました。炭酸飲料のイメージが強い同社にとって、“急須の味わい”を再現したこのお茶は、まさに異色の存在だったといえます。
当時の緑茶市場では、先発した伊藤園やサントリーがすでに地位を築いており、綾鷹はその中で「濁り」を前面に押し出すという逆張りのコンセプトを採用しました。あえて透明に仕上げないこと──それは“加工されすぎていない自然な味”という印象を与える巧みな戦略でした。
上林春松本店という、京都の名門茶舗を監修に据えながらも、それをあえて前に出さないという選択もまた、「語らない」ことによる余白の演出だったと考えられます。
その対極にあるのがサントリーの伊右衛門です。「京都・福寿園」のブランド監修を前面に押し出し、
「サントリー=京都・福寿園=伊右衛門」
この構図は大変インパクトがあり、今のTVCMでもその文化は、「これでもか!」という勢いで踏襲されていますよね。



引用元:サントリー伊右衛門 公式ホームページ
静かなナレーションが伝えた“語られない美味しさ”
こうした戦略は、CMの表現にもはっきりと表れていました。池田昌子さんのナレーションは、説明よりも感覚を伝えるトーンで構成されており、“誰がどこでどう作ったか”よりも、“それがどう感じられるか”を大切にしていたように思います。
綾鷹ブランドが伝えたかった「静寂」「高級感」「秘められた本格さ」といった印象は、この語られない構造によって成り立っていたといえるでしょう。
2025年、綾鷹が語り始めた理由
しかし2025年春、綾鷹は語り始めました。
こんがり脂の乗ったシャケ、 つやつやのご飯には、 淹れたて一杯目のような旨味が合う。 おにぎりには、綾鷹。
女優・上白石萌歌さんの可愛らしくも優しい語りで始まるこのCMは、明らかに変わった綾鷹の表情を映し出しています。具体的な食べ物、シチュエーション、効能的価値、そして明確な結論──「おにぎりには綾鷹」。
これは、語らなかったブランドが“自ら語り始めた”瞬間だったのではないでしょうか。



引用元:コカ・コーラ公式ホームページ
時代と消費者の変化に応じた、綾鷹の語り直し
この変化の背景には、時代の流れが影響していると考えられます。
まず13年前と比べると、自動販売機の数自体が3割減少しており、コカ・コーラの最大の強みであった販売ルートが弱体化していることを意味します。
また、価格の面でも変化が見られます。かつては150円程度が主流だったのですが、現在では綾鷹が170円と、他の茶系飲料と比べてもやや高めの価格設定になっています。
興味深いのは、自動販売機で綾鷹が170円で販売されている一方、スーパーマーケットでは同じ商品が108円で販売されている点です。この価格差を考えると、自動販売機で綾鷹を購入する人がどれほどいるのか、つい気になってしまいますね。
かつては「手軽にどこででも買える急須風味のお茶」として親しまれていましたが、現在では「お茶はどの商品を選び、どこで買うのかを考えるもの」という位置づけに変わりつつあるのかもしれません。
こうした変化は、私たちの生活に余裕がなくなっている証、とも考えられますね。
ペットボトル飲料は近年“高くなった”という印象があるものの、綾鷹の525mlサイズは13年前と比べて20円の上昇にとどまっています。
それに対し、同じ時期に100円だったコカ・コーラの350ml缶は、2025年現在150円と、5割も値上がりしています。
意外なことに、綾鷹の価格はこの10年間であまり大きく変わっていないのです。
恐らく清涼飲料水の価格が150円を超えると、「2コインの壁」のような心理的抵抗が働き、私たち日本人は必要以上に高くなったと感じる防御本能が働くのかも知れません。
しかし健康志向の高い、且つ可処分所得の高い消費者は「特保」というカテゴリーに対しては平気でその「2コインの壁」を超えた金額を支払えるのです。
そうした販売環境の変化、つまり逆風の中で、綾鷹はより食事と結びついた訴求へと舵を切り、現在の戦略にたどり着いたのだと考えています。
かつてのように「美味しさを感じてください」とだけ語って売れる時代ではなくなりました。自販機離れや節約志向の高まり、PB商品の台頭によって、「お茶は選ばれる理由が求められる存在」へと移り変わったように思います。
そこに現れたのが、2025年のローソンキャンペーンです。 「おにぎり350円分購入で、綾鷹などの緑茶が1本無料になる」。 伊右衛門、お〜いお茶、綾鷹──この銘柄すべてが対象となる中で、あのCMが流れていたのは偶然ではないと思います。



引用元:ローソン公式ホームページ
普段、綾鷹は他の緑茶飲料より少しだけ高めです。自販機では170円、伊右衛門やお〜いお茶より10円高いこともあります。だからこそ、ローソンで無料提供される綾鷹を手にする消費者には、「知っている人だけが得をした」という特別感が生まれるかも知れませんね。
「いつもは高いものが、今日はタダ」──その心理に、CMの記憶がぴたりと重なります。
綾鷹の居場所が変わった。 急須のそばではなく、おにぎりの横にある。 このポジショニング、なかなか良いと思いませんか?
確かに消費者の嗜好は変化しました。
かつては、急須で丁寧に淹れたお茶を楽しむ時間が日常の一部でした。 しかし今、人々は手軽に飲める一本を、日々の食事の中で選ぶようになっています。 「おにぎりには綾鷹」という語り口は、まさにその変化に寄り添ったものです。
かつて、コカ・コーラ社は綾鷹ブランドを立ち上げる際、競合商品と戦いながら、「香りが美味しさを呼び覚ます」という高級イメージを150円足らずのペットボトルに託しました。
しかし今振り返ると、その戦略にはやや不自然なバランスを感じるのも事実です。
本当に急須で淹れた香り高いお茶が飲みたい人は、専門店で高級茶葉を買い、家でゆっくり愉しむもの。
ペットボトルの「高級っぽい」綾鷹は中途半端なポジショニングだったのかも知れないですね。
そして今、綾鷹は「味覚の記憶」とセットで「手軽で食事に合うお茶」としての居場所を築き始めているのではないでしょうか。
最後に:綾鷹がこれからも語るべきこと
そして、もう一つの変化は「綾鷹が誰に語りかけているか」です。
池田昌子さんの静かなナレーションは、「成熟した消費者」に思い出の中の一杯を届けていました。 一方で、上白石萌歌さんの語りは、「若い生活者」に今、「おにぎり」に合う一本として手渡されています。 ブランドのターゲット層が明確に変化していることがわかりますね。
13年の月日を経て、綾鷹は変わりました。
かつてのブランド戦略は、「中高年世代に急須で淹れたお茶の代わりとして美味しさを懐かしんでもらう」という、やや無理のありそうな回顧的な路線でした。しかし今、綾鷹は「若い世代に、気軽に、おにぎりとともに楽しんでもらう」という日常路線へと、確実に舵を切ったように思います。
これはつまり、ペットボトル飲料として綾鷹ブランドを存続させるために、コカ・コーラ社が「売れる言葉」を模索し始めたということなのかもしれませんね。




最後までご覧頂き有難うございました。
皆さんはペットボトル飲料、どこで買ってますか?
私はドラッグストアでまとめ買いです!




良かったら、また見に来てくださいね!
👉https://www.makoto-lifecare.com/
“Ayataka turned its gaze—from those who remember, to those who reach for it today.”
(綾鷹はその視線を変えました。思い出す人から、今日、手に取る人へ。)
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