「農家になるためには何が必要か?」という疑問をお持ちの方も多いと思います。
「育てた野菜を出荷して収入を得る人」を「農家」と呼ぶのであるならば「農業大学校」などの卒業資格は不要です。
「JAの正規組合員となり、発行された証明書を出荷予定のJA産直市場などに提示し、年会費を支払い、出荷者としての登録手続きを行う」、以上の手続きが終わったら「農家」の仲間入りの第1歩です。
そして「個人事業主として農業をしている人」を「農家」と呼ぶのであれば「税務署に『開業届』を提出」して、毎年確定申告すれば、立派な「農家」さんですね。
私が早期退職後、新規就農するにあたっても特別に学校へ通わず市役所農業振興課に紹介された「体験農園」で「農業の基礎の基礎」を学びながら人脈を広げることからスタートしました。
そんな私が新規就農7年目に日本一大きな産直市場で月間売上1位となるために、駆け出し時代にやってたこと 、美味しい野菜を届けるために心掛けてたことについてお話しますね。
駆け出し時代にやったこと
私は農業の経験は全くゼロだったので、市役所の農業振興課の方にご紹介頂いた「体験農園」に入りました。
体験農園は一般の貸し農園とは違って、農地を貸してもらう以外に以下の特典がつきました
1.指導員が年間10種類以上の野菜の作付~収穫スケジュール立案と技術指導もしてくれる
2.農地だけでなく農機具や苗・種まで用意してくれる
3.収穫した野菜を洗う流し台やトイレまで完備されてる
そして体験農園に入って良かったなぁと思ったのが、収穫した野菜、特に美味しい「ゴボウ」に魅了されたことでした。
美味しい野菜を育ててお客さんを驚かせたいという野望を持っていた私にとって、どれも同じだろう、くらいにしか思ってなかったゴボウを育てる選択肢には入っていませんでした。
ところが体験農園で収穫したゴボウを使って「からあげ」を作ってみたところ、その味、香り、食感のすべてが、お店の味を超えていました。
拍子切りにしたゴボウを十分にあく抜きし、市販の唐揚げ粉をまぶし、揚げたてを「カレー粉+マヨネーズ」にちょっとつけて食べると、止められない美味しさでした。
自分で育てた野菜がこんなに美味しいとは!と感激したのを今でも覚えています。
早速、親しくしていた東京の有名中華料理店のオーナーシェフに送ったところ、「このゴボウなら、いくらでも買う」と言ってもらえたので、ゴボウの生産に適した「赤土の農地」を借りました。
赤土の畑は土壌の抵抗が少なく、微生物の活動が活発で土壌の肥沃度が上がると言われてます。
その結果、肥料が植物の吸収しやすい形に分解されるため根もの野菜の成長に好ましいそうで、事実その畑はかつてゴボウの名産地だったそうです。
例えば「らっきょう」だと「砂地」が良いと言われるように、育てたい野菜を「ゴボウ」と決めてから赤土の畑を借りられたことは幸運でした
それ以外に畑を借りてやって良かったことは以下の通りです。
1.人参だけでも20種類以上の品種を育てて、畑や気候に適したものを見極められたこと
2.土木業者に農地を深耕してもらって水捌けを改善し、根腐れリスクを軽減したこと
3.地域住民に溶け込む努力をして農地をドンドン拡大できたこと
4.日持ちして単価の高い根もの野菜(ゴボウ、人参、ジャガイモ)をメイン作物に選んだこと
美味しい野菜を届けるために
販売は東京の飲食店さんも協力してくれましたが、産直市場の中で日本最大規模の地元のお店がメインでした。
15%程度の販売委託料は売上から差し引かれますが、市場などとは異なり自分で値段を決めて出荷できる分、時期をずらして品薄時期に出荷したりして高値で販売する工夫はできました。
その結果、ゴボウ、人参、ジャガイモどれでも店頭価格1個100円(3本入りのゴボウや人参が300円/袋)で販売していると、他の県から見学に来られた農家さんからも「こんな高い値段で完売するんですか?」と羨ましがられました。
JA産直市場への出荷についてその手順をご紹介します
皆さんが今後収穫する野菜や果物をどのように販売したら良いかお話しますね。
本格的に農業をするのであれば「JAの部会」と言う組織に入って共同生産や市場への共同出荷をされるケースもあります。
栽培技術のアドバイスなども受けられますが、組織である以上、栽培する品種が指定されたり、出荷ノルマがあったりという縛りが当然ありました。
私は個人でやりたいようにやるために自営農家になったので、「一匹狼」として生きることを選び、「JAの部会」には入りませんでした。
そして個人の農家として最寄りのJA管轄の産直市場への出荷を販路としました。
JA産直市場への手続きや主な契約事項は以下の通りです
- JAへの出資金を支払って、JAの正規組合員となります(退会時に全額払い戻しされます)
- JA組合員の証明書を提示し、出荷予定の産直市場などで別途年会費を支払い、出荷者としての登録手続きを行います
- 定められたルールに従い生産記録(野菜や果樹の種類ごとに種まきの日付や散布した農薬の名称・日付・使用量などを記載)を提出済みの農産品を出荷します
- 価格も「1円/袋」などと安すぎる場合を除いて常識の範囲内で自由に値付けできます
- 委託販売であるため「売れ残り在庫は生産者のもの」ですから、生産者には回収の義務があります。回収できない場合は廃棄費用を別途生産者が産直市場へ支払います
- 月々の売上金額から「15~18%程度の販売手数料」と「商品貼付用に発行した値札ラベル枚数X¥1/枚」を差し引かれて翌月指定口座に振り込まれます
これらの手順を踏むことで、JA産直市場への出荷が可能となります。
ご覧になって分かるように農業大学校や農学部、農業高校の卒業資格などは不要です。
新規就農を決めたら実地で失敗を重ねながら経験値を積んで人脈を広げることが成功への最短ルートです。
産直市場への登録後は早急に野菜の出荷が出来るように準備を進めました。
産直市場を活用するメリットとデメリット
産直市場のメリット:
- 全面的なサポート:商品の管理、会計、館内の清掃、クレーム・返品対応など、売り場での仕事を全てお店が行ってくれます。
- 売上向上のアドバイス:珍しい商品を出荷した際に、売り場の店員から具体的なアドバイスをもらえ、それを実践することで売上が向上する可能性があります。
- 店長によるアナウンス:人気商品を追加入荷する際には、店長自らがアナウンスを行い、お客さんを売り場へ誘導し、出荷者を盛り上げてくれることがあります。
- 飲食店との接点がある:食材の仕入に産直市場を利用している飲食店は非常に多く、目新しいものを常に探しているため、ニッチな品種を生産していると必然的に接点が増えます
- 出荷規格が緩い点もありB級品も出荷できます(しかしながらその分、良品の売上が減ります)
産直市場のデメリット:
- お客さんによる商品の破損:お客さんが商品、特に小玉スイカなどを雑に扱い、破損させるケースがありますが、その際、出荷者の了解なく弁償の機会を断られてしまうことがあります。
- 特定の馴染みの出荷者からしか購入しない「指名買いのお客さん」も結構いるため、新参者には固定客がいる複数のベテラン出荷者との競争は非常に厳しいです。
プロの料理人から認めてもらえると、メリットがたくさんあります
大量に購入頂ける飲食店のお客さんの購入行動が他のお客さんを呼び込むことが良くあります
また事前に注文を頂ける間柄となると指定された期日に「予め頂いていた注文数量」を「個別包装は不要な箱詰め」の状態で産直市場に出荷できます。
販売量が見込めるため収穫作業にも無駄がなく、個別包装に値札ラベルも貼らなくて済む分、出荷作業も楽になりますから良いこと尽くめです。
顔なじみになったプロの料理人さんには他の野菜も紹介したりして、たとえダメ出しをもらっても次のステップのアイデアの源になりました。
但し農家と同様に飲食店同士も厳しい競争に晒されてますのでリスク分散はお互い必要です
なお…就農前から考えていた昔の仕事仲間への直売(通販)は、いざやってみるとラインナップを充実させたいがために詰め合わせ専用に「コカブ」とか「青梗菜」とかを別途育てなければいけないことは面倒でした。
割り切って他の生産者のものを買って来ることも考えたのですが、他所の野菜の方が美味しいとコメントされた時に受けるショックが怖かったので自分は出来ませんでした。
また送料1,050円込みで3,000円/箱の詰め合わせは包装・出荷の手間が煩雑で割に合わず、仲間たちに高い買い物させて申し訳ないと思いながら続けてましたので、宅配業者が送料を値上げしたタイミングで止めさせてもらいました。
効率的な生産・出荷体制には選択と集中が必要でした。
税務署への開業届の提出と確定申告
個人事業主として農業を始めるのであれば税務署への開業届の提出が必要です。
提出しなくても罰則はありませんが、開業届を提出することで、「青色申告特別控除を受けられる」「損失の繰り越しができる」などのメリットがあります。
青色申告特別控除は最大65万円の控除を受けられる制度で、年間10万円を超える節税効果を発揮することもあります。
提出のタイミングは「失業給付金が終わる時期」や「配偶者の扶養から抜ける時期」などにした方が良さそうです。
ただし節税効果が出て来るのは、初期投資も含めた費用を上回る売り上げを確保して「利益実現」した人だけです。
農業法人を設立するという方法もありますが、これは充分な利益が稼げるようになってからのことです。
大量生産に向けて機械導入です
シーダーテープは種まきの苦労を軽減する?
2000㎡で始めた農業も人参にファンのお客さんが増えて来て、畑を5000㎡まで拡大することとしました。包装・出荷作業の次に負担が大きかったニンジンの種まきの大変さを軽減するため、「シーダーテープ」を知人から紹介されて1度だけ使いました。以下のような説明を聞いて、試す価値があるかも知れないという可能性を感じましたが…
シーダーテープは、種蒔き作業を簡単にするための製品です。それは品種ごとに適正な間隔で種が封入されているヒモ状のテープで、必要な長さにカットしてまき溝に置くだけで、適正な株間に適正な数の種がまけるという、便利で優れた商品です。
ところが…
テープ自体の材質が思った以上に硬く、リールに巻き付けている際に出来たテープの癖がきつく、種を埋めたい掘った溝に一定の深さで納めるのが難しかったです。
捻じれがキツイ部分は土をかけても表面に露出し、そこに風を受けたり鳥が足を引っかけたりすると、埋めたはずのシーダーテープの大部分まで地表に出てしまい、結果的に発芽率は「さんざん」でした。
近年改良はされているようですが…
- 発注最低数量も相当数必要で多品種栽培には不向きである
- 吸水性の高さから使い切りが原則である
- 発注リードタイムも必要で、不足する時には種まき時期を逃すリスクがある
と制約が多いため、私は皆さんにシーダーテープはお薦めしません。
生種(きだね)を蒔くなら真空播種機で決まりです
本格生産するニンジンの品種が生種のものに決まったら、真空播種機を導入しました。JAの営農センターやホームセンター、通販などで買ってきた種をすぐに蒔けますから、多品種栽培を継続する場合にも有用です。
畝作りをしてネキリムシ対策のダイアジノン粒剤5とセンチュウ対策のネマトリンを振りかけたら、真空播種機で1往復2列の種蒔きが完了します。風が強い日でも問題なく種まきが出来ます。
30mの畝の種まき、これまで手作業だと1時間以上かかってたのに、たった5分で終わります
私が「農業をビジネス」として成功を目指すには必要な機械でした。
収穫と出荷は手間暇かけます
ジャガイモ、特にメークイーンの収穫や出荷は他の農家以上に丁寧に作業しました。
光に当たると緑色になり味も苦くなり、ソラニンという有毒物質が食中毒の原因となりますよね。
私は収穫にあたっては土から掘り起こして30秒以内に毛布を掛けた収穫用コンテナに入れていました。
帰宅後にはコンテナごと業務用冷蔵庫に保管し、最低1ヶ月は低温・遮光保存して糖度を高めました。
包装作業も室内光に極力当てないよう工夫して出荷したところ時季外れで競合品も少ない「真っ白なメークイン」は見た目も綺麗なため「お盆時期」と「クリスマスシーズン」には飛ぶように売れました。
農業はギャンブルという方もいらっしゃいますし、私もどちらかというと賛成派です。
九州など温暖な地区では9月までにジャガイモを植え付けると12月に収穫ができますが…
連作障害が生じやすいナス科のジャガイモですから、収量が少なめな夏植えのジャガイモには皆さん消極的です。
でも北海道産のジャガイモが品薄で相場が上がってるのであれば話は別ですよね。
それからでも植付は間に合いますので、「夏植えのメークイン」で勝負してみて下さい。
年末におせち料理や雑煮用に売れるゴボウも業務用冷蔵庫を活用したおかげで、大量にまとめて出荷することが出来ました。
投資費用としては安くはなかったですが、出荷時期に幅を持たせることが出来るのでピーク時の値崩れ時を避けて出荷できるため経営にプラスに働きました。
でも…廃業を決意です
高い単価で、且つ収穫と包装が追い付かないほど、ゴボウもジャガイモも売れていました。
ですが、主力となっていたニンジンの糖度が明らかに落ちて来ていることに気が付きました。
種まきの時期や施肥などを3シーズンかけて調整しても改善することはありません。
頑固おやじのラーメン屋ではありませんが、自信ないものお客さんに売りたくありませんでしたので廃業しました。
『よそのニンジンよりは美味しいんだから70点の出来でも良いではないか』と師匠からも説得されたのですが、変に頑固になってしまい少し勿体ないことをしたなと思う節もありますが、この決断は間違ってはなかったと思ってます。
全国的に見てもサクランボの主力産地の山形県でも温暖化の影響により2024年シーズンは記録的不作だったとのことで、その対策としてスプリンクラーなどの設置にかかる費用を半分補助することなどが決定したとの報道がありました。
今までのやり方が通じない気候変動に対して、厳しい経営環境の中から更に追加投資を迫られるのは難しいものがありますね。
農業との向き合い方について、私は「適度な距離感」が必要だと考えてますが、いかがでしょうか?
皆さんのお役に立てたら嬉しい限りです。
最後までご覧頂き有難うございました。
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