日本の茶農家は、急須でお茶を淹れる習慣の減少や「一番茶」の取引価格の低下により、収入が減少しています。
現在、茶農家の平均年収は約90万円と非常に厳しい状況です。
流通経路には仲介業者が介在しており、農家の利益が圧迫されています。
直販や観光農園などの新しい取り組みも見られますが、これで収益構造が飛躍的に改善するには至っていません。
ペットボトル用の茶葉生産は安定した収入をもたらす一方で、初期投資が大きいという課題もあります。
茶農家の減少と転作が進む中、補助金制度や優良品種への切替が支援策として注目されています。
日本の伝統的な食文化である「お茶」は、茶農家の努力と犠牲によって成り立っています。
しかしながら、小売業や茶舗の自己破産が相次いでいて、苦しいのは茶業界全体であることは間違いありません。
そこで一つ提案です。
みなさんの生活習慣に急須で淹れる一杯のお茶を取り戻してみませんか?
そしてリラックスした優雅な日常をSNSで呟いたり
通販サイトのレビューへコメントする。
そんな一歩が、きっと誰かを元気づけることでしょう。
もし共感頂けたら、このブログをお知り合いにも共有頂けると嬉しいです。
日本の茶葉農家の実情について
茶農家の収入と軒数
現在の茶農家の平均年収は約90万円ほどです。
この所得水準は日本の平均年収400万円強のレベルと比較しても、またトマトやイチゴなどの施設栽培農家が一人で200~250万円レベルだということを考えても異常に低い水準です。
生活スタイルの変化により、急須でお茶を淹れる人が減少し、農家の収入も減少傾向にあります。
特に「一番茶」の取引価格が過去10年でほぼ半減しているため利益が出にくい状況です。
このような状況から茶生産農家数は2007年からの10年間で約50%減少しました。
恐らく今の高齢生産者は年金や副業と併せて何とか生計を立てられているのでしょう。
しかし頼みの年金制度の将来はというと先細りの一途ですから茶農家の継続はより大変となります。
現在緑茶の自給率はほぼ100%ですが、このままでは茶農家が日本からいなくなる未来もありそうです。
お茶の国内販売と輸出状況
お茶の国内販売推移
- 2019年(令和元年): 770億円
- 2020年(令和2年): 780億円
- 2021年(令和3年): 790億円
- 2022年(令和4年): 800億円
- 2023年(令和5年): 810億円(推定)
このように、国内販売額は年々増加傾向にあります。特に、健康志向の高まりやペットボトルのお茶の普及、日本茶の多様な楽しみ方の提案が、国内市場の拡大に寄与していると考えられます。
お茶の輸出売上推移
- 2019年(令和元年): 146億円
- 2020年(令和2年): 162億円
- 2021年(令和3年): 204億円
- 2022年(令和4年): 219億円(過去最高額)
- 2023年(令和5年): さらに増加傾向が続いている
このように、特に2022年には過去最高額の219億円を記録し、輸出額が年々増加していることがわかります。
主な輸出先はアメリカ、台湾、EU・英国であり、特に抹茶の人気が世界的に高まっています。
お茶の輸出が好調な理由としては、世界的な日本食ブームや健康志向の高まりが挙げられます。
また有機栽培茶の需要も増えており、鹿児島県などでは有機栽培面積が拡大しています。
大手国内茶メーカー 伊藤園の売上・利益推移
ここ5年間の伊藤園の売上高と営業利益の推移は以下の通りです:
- 2020年4月期:
- 売上高: 4,833億円
- 営業利益: 199億円
- 2021年4月期:
- 売上高: 4,462億円
- 営業利益: 166億円
- 2022年4月期:
- 売上高: 4,007億円
- 営業利益: 187億円
- 2023年4月期:
- 売上高: 4,316億円
- 営業利益: 195億円
- 2024年4月期:
- 売上高: 4,538億円
- 営業利益: 250億円
このように、売上高と営業利益は年々変動していますが、2024年4月期には売上高が4,538億円、営業利益が250億円と増加しています。
以上の情報から読み取れることは、高品質な茶葉を生産する茶農家にはある程度高い水準の利益還元が期待できるものの、利益の大半は大手の茶メーカーが確保しやすいのであろうということが推測できます。
伊藤園も食育活動などを通じて業界団体への支援などへの取り組みもされており、社会貢献や利益還元を意識されていて地域との「共生」を目指されてます。
詳しくはこちらをご参照ください。
減少した茶農家はどこへ?
お茶どころ静岡県のある茶農家は「シキミ(樒)」に活路を見出しました。
シキミは仏壇や墓に供えられる植物で、温暖な山地などで栽培されます。
静岡市のある農家は2世代にわたり50年以上茶を栽培していましたが3年前に完全に撤退し、代わりにシキミの栽培を始めました。
以前は高級茶として山のお茶で作業が大変でも単価が良く、収入的には見合っていましたが、単価の下落でかなり痛手を受けました。
シキミの場合は年間需要があり毎月出荷すれば毎月収入が入りますが、お茶の場合は年に1回か2回収入が入っても、あとはその収入で作業しなければなりません」
ある元茶農家はもともと茶畑だった合わせて1ヘクタールにシキミなどを植え、関東や関西の市場に1束200円から400円ほどで出荷しています。
茶栽培は収入面以外にも、茶農家特有の家族総出での労働が必要なことも撤退した要因だと話します。
原因は高齢化や後継者不足がありますが、根底には茶葉の取引価格の低迷や過酷な労働環境があげられます。
現状、ほぼ100%である日本の緑茶の自給率ですが、これが維持できる保証はないですね。
2024年の都道府県別の茶出荷額ランキング、ベスト5
- 静岡県 – 27,200トン
- 鹿児島県 – 26,100トン
- 三重県 – 5,220トン
- 宮崎県 – 2,940トン
- 京都府 – 2,640トン
静岡県と鹿児島県が特に高い生産量を誇っています。
2019年には鹿児島県が平地を活かし、機械を導入した大規模茶葉園を展開して全国1位となったこともありましたが、以下の戦略で静岡県が首位の座を奪還しました。
静岡県の戦略と取り組み
品質重視の生産: 静岡県は高品質な一番茶を主体とした茶業経営を行っています。これにより、リーフ茶の需要が低迷する中でも、品質の高さを維持し続けています。
茶産地の構造改革: 静岡県は茶産地の構造改革を推進し、需要創出と消費拡大に力を入れています。特に「ChaOIプロジェクト」を通じて、茶の新たな価値の創造と需要の創出を支援しています。
- ChaOIプロジェクトは、茶の生産者や流通販売業者、観光業者、食品事業者、そしてChaOI-PARC(茶業研究センター)が連携・協力して、静岡茶の新たな価値を創造し、需要を創出するために新商品開発などに取り組んだ成果が出たプロジェクトです。
- プロジェクトの主導者は、静岡県の経済産業部農業局お茶振興課です。この課が中心となり、茶の生産者や流通販売業者、観光業者、食品事業者などの協力を得て、静岡茶の新たな価値の創造と需要の創出を推進しています。
先端技術の活用: 先端技術を活用した生産基盤の整備や、新たな需要創出に向けた取り組みを行っています。これにより、効率的な生産と高品質な茶の提供を実現しています。
ブランド力の強化: 静岡茶のブランド力を守りながら、生産者の経営の安定と茶業の再生に全力を挙げています。これにより、静岡茶の価値を国内外に広める努力を続けています。
これらの戦略と取り組みにより、静岡県は再び茶の出荷額で1位に返り咲くことができました。
お茶の流通
お茶の流通には以下の通り仲介業者が介在することが一般的です。
- 茶農家: 茶葉を生産。
- 地元の農協や斡旋業者: 茶葉を購入。
- 茶市場: 茶葉を出荷。
- 産地問屋: 茶葉を加工。
- 消費地の茶専門店やスーパー: 茶葉を販売。
最近では、中間マージンを嫌う茶農家が、収益アップのため直接消費者に販売するケースも増えています。
茶農家の生計維持方法
茶農家は以下の方法で生計を維持しています
- 兼業農家: 他の農作物を栽培したり、別の仕事を持つ。
- 直販や加工品の販売: 茶葉を直接販売し、収益を増やす。
- 観光農園や体験型農業: 茶摘み体験や茶道体験を提供。
- 補助金や助成金の活用: 経済的な支援を受ける。
しかしながら、いずれも本業の水準を上回る収益ではないため、茶農家が厳しい経営状態であることに変わりはありません。
ペットボトル用の茶葉を生産している農家は消費量が増加していることもあり、大規模化・機械化の導入で比較的安定した収入を得ていると言われてますが、初期投資が大きいために回収するまでには長い時間が必要です。
費用の概算をしたところ茶園の規模や導入する機械の種類によって異なりますが、一般的には以下のような驚きの金額が必要となります
- 乗用摘採機:茶葉の収穫に使用される機械で、価格は約500万円から1000万円程度です。
- 製茶機械:茶葉を加工するための機械で、これには蒸し機、揉み機、乾燥機などが含まれます。これらの機械のセットで約1000万円から2000万円程度かかります。
- 防除機:病害虫の防除に使用される機械で、価格は約100万円から300万円程度です。
- ドローン:茶園の管理や病害虫の監視に使用されるドローンで、価格は約50万円から100万円程度です。
これらを合計すると、初期投資としては約1650万円から3400万円程度が必要となることが一般的です。
農業用機械の初期投資がこれだけ必要となる作物は施設栽培を除くとコメ農家(約2000万円~4000万円)くらいしか思い浮かばないです。
間違いなく、かなり高額な投資となります。
気候変動の影響とその対応
高温と少雨
- 茶樹の生育抑制: 夏季の高温と少雨により、茶樹の生育が抑制され、葉や枝が枯れることがあります。特に三番茶の生育に影響が出やすいです。
- 水分不足: 高温が続くと、茶樹の水分不足が深刻化し、新芽の生育が遅れることがあります。
異常気象
- 台風や豪雨の被害: 台風や豪雨による被害も増加しており、特に幼木が強風で傷つくことがあります。
- 晩霜の被害: 晩霜による新芽の枯死も大きな経済的被害をもたらします。
温暖化による生育期間の変化
- 摘採期の早まり: 温暖化により、一番茶の萌芽期や摘採期が早まる傾向があります。これにより、摘採期間が短縮されるリスクが高まります。
対策と適応策
防霜対策
- 防霜ファンや散水氷結法: 防霜ファンやスプリンクラーによる散水氷結法が実用化されており、霜害を防ぐための対策が進められています。
灌漑設備の導入
- 畑かん設備: 畑かん(灌漑)設備を導入することで、干ばつ時の水分不足を補い、茶樹の生育を安定させることができます。
耐寒性品種の導入
- 耐寒性品種の選定: 温暖化に適応した品種の選定や開発が進められており、耐寒性の高い品種を導入することで、気候変動に対応しています。
適応技術の開発
- 耐凍性評価や省電力制御技術: 茶樹の耐凍性評価や防霜ファンの省電力制御技術の開発が進められており、これらの技術を活用することで、気候変動の影響を軽減する取り組みが行われています。
以上の通り、気候変動は茶葉生産農家にとって大きな課題です。
さまざまな対策や技術開発を通じて、その影響を軽減する努力が続けられています。
しかしながら、設備設置・稼働にはそれ相応の投資が必要であり、原油高にインフレの高まりなど、異常気象への対応は茶農家の経営を更に圧迫する要素となっております。
他の作物と同様に茶農家でも気候変動の影響を大きく受けていることは間違いないです。
温暖化によりトマトなどの主生産地が北海道へシフトしてます。
酷暑の中、従来の生産地では変化が求められていることなど、こちらにまとめておりますので、併せてご覧ください。
優良品種茶園への切替
農林水産省の支援により、茶農家は優良品種への切替を進めています。
「優良品種」とは、収量や品質、病害虫抵抗性などの面で優れた特性を持つ茶の品種を指します。
具体的には以下のような品種が含まれます
- やぶきた: 日本で最も広く栽培されている品種で、バランスの取れた味わいと高い収量が特徴です。
- さえみどり: 渋みが少なく、甘みと旨みが強い品種で、煎茶として人気があります。
- つゆひかり: 爽やかな香りと甘みが特徴で、ペットボトル飲料にも適しています。
- おくみどり: 晩生品種で、すっきりとした味わいが特徴です。煎茶や玉露に利用されます。
- べにふうき: アレルギー対策としても注目されている品種で、ペットボトル飲料としても人気があります。
これらの品種は、農林水産省や地方公共団体、農協の支援を受けながら、茶農家によって積極的に導入されています。
この中でも「やぶきた」は「やぶきたブレンド」の宣伝文句のお陰で知名度が高いですね。
まとめ
茶農家は家族総出で働いて平均年収が約90万円という非常に低い水準であることに驚きを隠せません。
直販を試みたり、加工品の販売・観光農園、補助金の活用など収益構造の改善に向けた自助努力の他に、補助金が活用できる自治体も一部あるようです。
しかしながら異常気象の影響とその対策に追加の設備投資が必要となり、更に経営環境を悪化させる要因となってます。
産官共同で都道府県別生産量首位の座を奪還した静岡県の成功例もありますが構造的な問題点の解消には至ってません。
そもそもの原因は「急須でお茶を淹れる人が減少」したために、高収益であった「一番茶」の取引価格が半減した、私たち日本人の生活様式の変化にあります。
手軽なペットボトルに消費がシフトしたために、生産現場ではそれに合わせた品種への切替が進んでおります。
茶は木の葉ですから、収穫するまでには相応の年月が必要です。
茶の種を蒔いてから収穫するまでには通常4~8年程度かかるそうです。
ただ逆に言えば「一番茶」の需要がインバウンド需要や輸出で急に高まれば供給量が限られているので価格が高水準になりうるということです。
しかし日本の伝統文化である「茶」を後世に残すために外国の方たちの消費に頼るというのは若干寂しく感じるのは私だけでしょうか。
可能な範囲で私たちの消費行動を変化させて、伝統あるお茶をもう少し楽しんでみませんか?
ご賛同頂ける方はこちらのブログをSNSで拡散頂いたり、お知り合いやご友人にご紹介下さい。
またお茶の文化について触れてみたいと思った皆さんには現在私が読んでいるこちらの本がお薦めです。
日本人としての嗜みとして、日常に活かせると素敵な雰囲気が漂う大人になれるかも、と思わせてくれる一冊ですよ。
追記 2024年11月20日
抹茶市場についてこの記事で予期していたことが起きました。
海外向けの抹茶売上が爆発的な成長を示したことから品薄となったのです。
生産者が半分になって異常気象があって、ペットボトル用のお茶への切替が進んでいるのですから売上が一定数を超えれば品薄になって当然ですね。
抹茶の売れ行きが好調なことは喜ぶべきことなのですが、「転売ヤー」の参入が確認されたようです。
本来、生産者や関係者の皆さんが受け取るべきであった「抹茶が生み出した利益」を、
何の努力もしていない第3者が掠め取るのは、やり場のない怒りを感じます。
そんな気持ちで点てるお茶では穏やかな心を取り戻せそうにないです。
資本主義のルール上ではOKであるのは分かっていても、コンサートやスポーツ観戦のチケットにしても、感染症拡大時のマスクにしても、人の弱みに付け込む商売は好きになれないですね。
転売防止のためオンラインショップの閉鎖や販売制限されるところが相次いでいるようです。
その結果、抹茶を必要としている方の手元に商品が届きにくくなるような事態となってることは悲しいことです。
一保堂茶舗も「年明け以降販売再開予定」とコメントされております。
我々、お茶の愛好家が出来ることは、このメッセージを信じて「転売ヤーからは絶対買わないこと」です。
需給バランスの崩壊した抹茶不足は、今後も継続的に生じます。
このタイミングで転売ヤーに「抹茶愛好家は転売商品を買わない」と理解させて、市場から退場してもらいませんか?
抹茶商品は「必要な分」だけを「正規ルート」から購入したいですね。
皆さんのコメントをお待ちしております。
最後までご覧頂き
有難うございました。
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