早期退職からの脱サラ農業ガイドです 農業関連会社の倒産

2024年8月26日、京都市に本社を置く植物工場の会社、株式会社スプレッドが京都地裁へ民事再生法の適用を申請しました。

同社は2006年1月に設立された施設園芸農業者です。

人工光制御技術を利用した水耕栽培でレタスやイチゴなどの無農薬野菜を生産しており、2007年には亀岡市に「亀岡プラント」を設立し、2018年には木津川市に「テクノファームけいはんな」を開設し、フリルレタス、プリーツレタス、スティックレタスの生産を手がけていました。

製品は外食・中食向けに販売するほか、大手スーパーのOEM商品としても生産していました。

LED照明による多段式水耕栽培方式を採用することで無農薬栽培を可能とし、露地栽培品との差別化を図っていました。

パンチです

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目次

株式会社スプレッド、民事再生法を申請

しかし、多額の設備投資やエネルギー価格の高騰により経営が厳しくなり、2022年には特別損失を計上して再び債務超過に陥りました。

2024年4月には亀岡プラントでの生産を一時停止し、資金繰りが限界に達したため、法的手続きによる再建を目指すこととなりました。

現在、複数のスポンサー候補企業が支援を検討しているとのことです。

一方で民事再生法の申請手続きが行われた8月26日現在でも、インターネット上では有力転職エージェントを介しての同社への採用情報も掲載されており、積極的な採用活動を背景に直近に入社した社員もいたものと思われ、従業員数は70名とのことです。

2024年9月6日 スプレッド社、再生手続開始決定を公表

再生手続開始決定は、裁判所が民事再生法の適用を正式に認めたことを意味し、今後の再建に向けた法的手続きが本格的に始まることを示しています。

また、申請時点での情報として、負債総額は2023年9月期末時点で約37億4300万円でした。

今後は、裁判所の管理下で再建計画の策定や債権者との調整が進められると予想されます。

スポンサー企業の選定や事業再構築の具体的な内容が今後の焦点となるでしょう。

なお公表はされておりませんがスポンサー企業の候補として中部電力の名前が一部報道されております。

両社の関係性は以下の通りです。

  1. 2021年に、スプレッドは中部電力などとの合弁会社を立ち上げ、静岡県袋井市内に「テクノファーム袋井」を稼働させました
  2. 中部電力は、スプレッドのスポンサー候補企業の1つとして名前が挙がっています
  3. 中部電力は、植物資源に関する資源循環事業の推進に向けた取り組みを進めており、この分野でスプレッドの知見を活用できる可能性があります
  4. スプレッドの民事再生法申請後、中部電力を含む複数社からスポンサー支援の検討に関する意向が表明されています

これらの情報から、中部電力とスプレッドは過去に合弁事業を行った実績があり、現在はスプレッドの再建に向けたスポンサー候補の1社として中部電力が検討を進めている状況であることがわかります。

両社の技術や知見を組み合わせることで、植物工場事業や資源循環事業での相乗効果が期待されている可能性があります。

色々な可能性は考えられますが、スプレッドの事業継続により、既存の雇用を維持するとともに、事業拡大に伴う新たな雇用創出が期待できれば、地域の雇用機会を増やし、経済活性化につながる話となります。

今後も事態を注視したいと思います。

親会社 株式会社トレードの概要と影響

株式会社スプレッドの親会社である株式会社トレードは、日本全国約300の卸売市場から情報を収集し、野菜の需給バランスを保つ転送事業と、野菜のブランド化を行い生産者をサポートする直販事業を展開しています。

また青果の卸売市場間での売買調整や生産農家のネットワーク化事業なども行っており、価値ある野菜を提供することを目指しています。

スプレッドはトレードの主要な子会社であり、特に植物工場事業において重要な役割を果たしていましたので、トレードは一時的に供給チェーンの再構築や顧客対応に追われることが予想されます。

しかしトレードは他の事業も展開しており、全体的な影響は限定的である可能性もあります。

具体的な影響については、今後の再建計画やスポンサー企業の支援状況により変動するため、引き続き注視が必要です。

なお2024年9月12日時点で追加公表された情報はありませんでした。

2024年9月の農業関連企業の倒産について

2024年の農業、特にコメ農家の廃業状況に関する重要な情報報告が行われています。

具体的な事例は示されていませんが、以下のような状況が報告されています。

コメ農家の倒産・廃業状況

2024年1月から8月までの期間に、米作農業(コメ農家)において以下の状況が報告されています

  • スロット(1000万円以上、法的整理):6件
  • 休廃業・打ち切り(廃業):28件

合計34件のコメ農家が生産現場から消滅しました。

この数字は2023年通年の35件を大幅に上回っており、2024年は年間最多記録を更新する見込みです。

さらに、年間40件台に達する可能性も示唆されています。

倒産・廃業の背景

コメ農家の倒産や廃業が相次ぐ主な課題として、以下が挙げられています

  • 生産コストの上昇
    • 2023年の農業生産資材価格は2020年平均比で1.2倍に上昇
    • 肥料価格は1.5倍、光熱動力は1.2倍、農業薬剤は1.1倍に上昇
  • 後継者・就農者不足
    • 小規模コメ農家での就農者の高齢化と離農の進行
    • 次世代の担い手不足
  • 販売価格への転嫁困難
    • 国内の主食用米消費量減少により、コスト増を価格に反映するのが困難

2024年夏の品薄により「令和のコメ騒動」が起きて、コメ価格は上昇していますね。

賛否両論ありますが、生産コストが上がっている以上、売価への価格転嫁をしない限り生産者だけが負担を背負いこむのです。

収入が増えないために皆さんの家計が大変なのは良く分かります。

ただ妥当な価格かどうかは現状の家計負担増加だけで判断するのではなく、食文化を後世に残すための投資・支援分も含むんだ!と考えてもらえると農業に携わってきた者としては有難いです。

業界の展望

今後、以下のような前向きな動きも見られます

  • 主食用米価格の上昇傾向
  • 高付加価値米(低農薬米、無農薬米など)のニーズ拡大
  • JAを中心とした新規就農支援の取り組み

価格転嫁によって需要が激減するのであれば、国産のコメの安定供給に限界がくる日も近いと思います。

近年に倒産した農業関連業者について

近年農業関係の会社で同様の倒産事例が増えております

2023年度には農業関連業者の倒産が過去最多の81件に達し、前年2022年の75件を上回りました。

負債総額上位は次のように畜産関係の会社となってます。

神明畜産

神明畜産は豚熱の発生や飼料価格の高騰など、さまざまな困難に直面し、2022年9月9日に民事再生法の適用を申請しました。

負債総額は約574億6,900万円です。

その後、兵庫県姫路市に本社を置くバンリューとスポンサー契約を結び、支援を受けながら再建を進めています。

イセ食品グループ

イセ食品グループは、2022年3月11日に会社更生手続きに入りました。

負債総額は約453億円で、イセ食品とそのグループ会社であるイセ株式会社が対象となっています。

イセ食品は「森のたまご」などのブランドで知られ、全国のスーパーに鶏卵を供給していましたが、過剰債務や資金繰りの悪化が原因で経営が困難になりました。

新型コロナウイルスの影響や飼料価格の高騰も、経営悪化の一因とされています。

その後、2022年11月25日に、三井住友銀行の100%子会社であるSMBCキャピタル・パートナーズとスポンサー契約を締結しました。

このスポンサー契約により、イセ食品グループは事業を継続することができました。

金融機関の支援を受けながら、鶏卵事業の販売活動や農場、工場の運営を続けています。

スポンサーの協力を得て、再建に向けて大きな一歩を踏み出しています。

長島ファーム

長島ファームは、2022年3月2日に民事再生法の適用を申請し、再建に向けて動き出しました。

負債総額は約32億8600万円で、豚流行性下痢 (PED)の感染被害や飼料価格の高騰が経営悪化の原因となりました。

再建に向けてスポンサーを選定し、事業再建を図る計画が進行中です。

現在の状況については、具体的なスポンサー企業の情報は見つかりませんでしたが、再建に向けた努力が続けられているようです。

ワールドファームとその関係会社

ワールドファーム(茨城県つくば市)と関係会社のONLY JAPAN、つくば低温サービスは、2023年10月10日に東京地裁より破産手続き開始決定を受けました。負債総額は3社合計で約34億9000万円に上ります。

ワールドファームの概要

ワールドファームは、2000年1月に設立された農業生産法人で従業員数は約100~300名です。

農産物の生産から加工、販売までを一貫して手がけ、自社農園や契約農家が栽培した農産物を自社工場で加工・包装し、食品卸会社や食品メーカーや外食業界、学校給食や病院食等に販売していました。

また熊本県においては「ホウレンソウや小松菜の生産と冷凍加工」、鳥取県においては「ゴボウやキャベツの生産と冷凍加工」などの拠点を有しており、生産・加工・販売の一貫体制を支える重要な役割を果たしていました。

2019年度には農林水産省から6次産業優良事例表彰において農林水産大臣賞を受賞したこともあったそうです。

そのビジネスモデルを全国に広げるべく、大手企業と共同で別会社を立ち上げ、運営指導などのコンサルティング業務も行っており、2019年6月期の年売上高は約16億7400万円を計上していました。

経営悪化の背景

しかし、コロナ禍で外食産業が営業自粛に追い込まれ、売り上げも急激に落ち込みました。

2020年6月期から3期連続で大幅な欠損となり、債務超過に陥っていました。

関係会社の状況

ONLY JAPANは2009年6月に設立された冷凍野菜の卸売業者で、ワールドファームなどが生産・加工した冷凍野菜を仕入れ、食品会社や食品商社に販売していました。

つくば低温サービスは2003年2月に設立された運送業者で、冷凍野菜の配送を行っていました。今回、ワールドファームに連鎖して破産手続きに入りました。

現在、ワールドファームを含む3社は再建の見込みは立っていない状況です。

アースワンファーム

アースワンファームは、三重県菰野町神森に所在する農業生産法人です。

2019年6月に設立され、近隣の農家から農地を借りて米やもち米を生産し、田植えや稲刈りの作業を請け負っていました。

しかしながら以下の理由により2024年6月5日付で地裁四日市支部に自己破産を申請しました。

負債総額は約2億円に達しました。

  • 補助金の不取得: 直営店舗の開店資金として見込んでいた補助金が得られなかった。
  • 資金繰りの悪化: 補助金が得られなかったため、資金繰りが苦しくなった。
  • 人手不足: 従業員の退職により、人手不足が発生した。

現在、破産手続きが進行中であり、再建の見込みは立っていない状況です。

2024年10月1日に破産した大山牧場についてこちらにまとめております。

「うしおじさん」のブランドで全国的に知名度が高い企業であったため業界に衝撃が走っております。

まとめ

今回の報道ではスプレッド社は多額の設備投資に加えてエネルギー価格の高騰により倒産となったということです。

そもそも砂漠の真ん中にあるドバイなどとは異なり、日本のように温暖で適度に雨が降る気候区では露地栽培や簡易な施設栽培で十分に野菜が育つ環境です。

レタスに至っては露地栽培でも無農薬栽培が一般的ですから、露地ものが出荷されるタイミングにおいては植物工場製品の出る幕はありません。

不思議なことに、スプレッド社に限らず、次々にレタス工場に参入しては撤退する会社が後を絶ちません。

そこで完全無農薬のイチゴを売りに植物工場のビジネスモデルとして提案してきたのでしょう。

ですが重油を燃料に比較的安く生産・管理するシステムとブランドがJAを中心に出来上がっている栃木や福岡の農家と勝負するのは厳しかったと思います。

また可処分所得が減っていく人口減少社会である日本において、高価な「野菜工場製品」にどれだけのニーズがあるのか疑問です。

現在植物工場として実生産されている野菜はレタスやイチゴの他にはトマトやパプリカが知られてます。

このビジネスモデルが今後日本で受け入れられ、継続されるものとなりうるのか、だとすればどのような方策があるのか、スプレッド社のスポンサー企業の対応を興味深く見守りたいと思います。

SDGsの意識が求められる中、企業イメージアップなどを目的に電力会社や商社、証券会社など幅広い業種を中心に「野菜工場ビジネス」に出資している企業があります。

同様のニュースやアグリ事業からの撤退の話が今後も出て来るかもしれません。

その中で、大和証券グループのパプリカへの取り組みについてこちらにまとめております。

単なるスマート農業を取り入れた農業法人という生産者としてではなく本業である金融業で培ったコンサルタント業務への展開も視野に入れた大変興味深い取り組みですので、どうぞご覧ください。

これから早期退職をご検討の皆さんには、「農業は趣味」として適切な距離感で付き合って頂き、「生活の拠り所」とは位置付けないことが賢明であろうかと思います。

早期退職を機に新規就農をお考えの皆さんには、そのOBの立場として、今だったら私が間違いなく選択するであろう「海外での短期就農体験」についてこちらにまとめております。

ご自身の適性を見極めるためにも、この海外での非日常体験をご家族と一緒に過ごされてから、その後の人生を冷静に考えて頂けたらと思います。

また周囲に新規就農を検討されているお知り合いがいらっしゃる方にもご紹介下さい。

この情報がお役に立てたら嬉しいです。

追記 2024年10月28日

株式会社スプレッドは、2024年8月26日に民事再生法の適用を申請しました。

その後、約2ヶ月が経過した現時点で、再建に向けた法的手続きが進行中です。

負債総額は約37億円で、再建計画の策定や債権者との調整が進められています。

現在、複数のスポンサー候補企業が支援を検討しているとのことです。

再建が成功すれば、既存の雇用を維持しつつ、新たな雇用創出も期待されています。

今後の動向に注目ですね。

2024年11月8日追記 野菜卸売業者「NFP」 破産手続き開始決定

民間の信用調査会社・帝国データバンクによりますと、長野県塩尻市の野菜卸売業者「NFP」が10月22日に長野地裁松本支部から破産手続きの開始決定を受けていたことがわかりました。

同社は2019年(令和元年)に創業し、2020年(令和2年)に法人改組されました。農家および卸業者からレタスやサニーレタス、グリーンリーフ、ロメインなどの葉物野菜を主体に、キュウリやトマトなどの農作物全般を仕入れ、県外の野菜卸業者に販売していました。

2021年(令和3年)11月期の年間売上高は約2億6100万円、2022年(令和4年)11月期では約2億5400万円を計上し、当期純利益も計上していました。

しかし、天候などの外的要因に左右されやすく、同業者との価格競争が激しく、収益が低迷。

支払いが先行していたこともあり資金繰りがひっ迫し、先行きの見通しが立たなくなったことから事業の継続を断念し、2024年3月までに営業を停止しました。

負債は約8000万円にのぼると見られています。

野菜の「卸売業者」は農業ビジネスの中で、流通改革にあたって一番のターゲットになります。

生産者から見ても小売業者から見ても利益拡大を目指すには、「中間マージンの削減」が一番手っ取り早い方策です。

生産者と小売業者や末端顧客と直接取引を行うケースが増加していることによって、ただでさえ儲かりにくい農業ビジネスの中でNFPが存在価値を発揮するには、品薄のため値上がりした野菜を更に高いコストを支払って生産者から仕入れるしかなく、その割高な仕入品を小売業者に適正な利益を乗せて販売することが出来なかったのであろうと推測されます。

この野菜などに限らず卸売業の経営は今後、ますます苦しくなることが予想されます。

特別な仕入れルートまたは特別な販売ルートを持っている卸売業者であれば大手小売りチェーンなどのグループへの組み入れで生き残りを図ることができるでしょうが、そうでなければ今後もNFPのように淘汰されるところが出て来るものと思われます。

パンチです

最後までご覧頂き
有難うございました。




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