- ▶ なぜ「野菜工場のトップランナー」スプレッドが倒産したのか
- ▶ 農業法人の倒産が続く“業界全体の危機”と、その共通点
- ▶ 「農業を仕事にしたい人」が知っておくべき、農業法人の“不確実性”とリスク
2024年8月26日、京都市に本社を置く野菜工場の会社、
株式会社スプレッドが京都地裁へ民事再生法の適用を申請、倒産しました。
同社は2006年1月に設立された施設園芸農業者であり、
野菜工場のトップランナーとして注目されてました。
人工光制御技術を利用した水耕栽培でレタスやイチゴなどの無農薬野菜を生産しており、
2007年には亀岡市に「亀岡プラント」を設立し、
2018年には木津川市に「テクノファームけいはんな」を開設し、
フリルレタス、プリーツレタス、スティックレタスの生産を手がけていました。
製品は外食・中食向けに販売するほか、大手スーパーのOEM商品も生産。
LED照明による多段式水耕栽培方式を採用することで無農薬栽培を可能とし、
露地栽培品との差別化を図っていました。
植物工場の先駆者として注目されていたスプレッド社に、一体何があったのか、
皆さんと一緒にその裏側を確認し来たいと思います。

どうぞ最後までご覧くださいね
株式会社スプレッド倒産の裏側
株式会社スプレッドは、2024年8月26日、京都地裁へ民事再生法の適用を申請しました。
同社は施設園芸農業の最前線を担ってきた企業であり、
人工光制御技術を利用した水耕栽培でレタスやイチゴの無農薬野菜を生産していました。
しかし、多額の設備投資やエネルギー価格の高騰が経営を圧迫し、
2022年には特別損失を計上。
再び債務超過に陥ったことが倒産の主な原因とされています。
単価が安い野菜ビジネスは、光や水を自然から得られる露地栽培農家でさえ、
利益を上げるのが特に難しい分野です。
それが野菜工場では、
「巨額の初期投資」に加えて
光源や温度を人工的に維持するための「光熱費」、
更に「市場価格の急落」、
「設備の不調」、
「円安による電力コスト上昇」
こういった外的要因が重なると、経営計画の根幹が一気に崩れてしまいます。
実は私、スプレッド社の倒産前に大手転職エージェントから同社を紹介され、
面接を受けたことがあり、内情を知る機会がありました。
実際、優秀な人材は倒産を待たずして次々と離れ、
社内には早くから不穏な空気が漂っていました。
また欠員募集のため、複数の責任者ポジションが同時に募集されており
大手転職エージェントから私のところに何度も転職の打診がありました。
そしてついに2024年4月には亀岡プラントでの生産が一時停止され、
資金繰りが限界に達した結果、法的手続きによる再建を目指すこととなりました。
複数のスポンサー候補企業が支援を検討中であり、再建への道が模索されていると報じられています。
再生手続開始決定と負債状況
2024年9月6日、裁判所が再生手続開始を正式に認め、法的手続きが本格的に始まりました。
負債総額は2023年9月期末時点で約37億4300万円と報告されています。
今後、裁判所の管理下で再建計画の策定や債権者との調整が進められる予定です。
スポンサー企業の選定が焦点となる中、一部報道では中部電力が候補の一つとして挙がっています。
同社は過去にスプレッドと共同で「テクノファーム袋井」を立ち上げた実績があり、
植物資源の循環事業での相乗効果が期待されています。
地域への影響と雇用創出
スプレッドの事業継続が成功すれば、既存雇用の維持だけでなく、
事業拡大に伴う新たな雇用創出が地域活性化につながる可能性があります。
親会社「株式会社トレード」の概要と今後
親会社である株式会社トレードは、全国約300の卸売市場から情報を収集し、
野菜の需給バランスを調整する転送事業や、生産者を支援する直販事業を展開しています。
スプレッドは同社の主要子会社であるため、再建計画の成否はトレードにも一定の影響を及ぼす可能性があります。
トレードは多角的な事業を展開しているため、
スプレッドの経営危機による直接的な影響は限定的であると予測されています。
今後も、再建計画やスポンサー企業の支援状況を注視する必要があります。
2025年6月 スプレッド破綻手続きの完了
スプレッドの運営する工場は以下のように2025年6月1日付で事業譲渡が完了しました。
- 静岡工場「テクノファーム袋井」は合同会社TSUNAGU Community Farm(中部電力グループ)に譲渡。
- 京都工場 「テクノファームけいはんな」は東急不動産の100%子会社である株式会社Green Factory TFKに譲渡。
この発表により、野菜工場会社であったスプレッドの破綻後の事業の整理・再建が終了しました。
従業員の皆さんは、ようやく一安心されていることでしょう。
引き続き両社の再建の行方を見守らせて頂きます。




倒産の少し前にこの会社の求人に応募していました。
このことについて別記事にまとめましたので、
もし良かったらご覧くださいね。
近年に倒産した農業関連業者について
スプレッドの例に留まらず、農業関連業者の倒産が増加傾向にあります。
2023年度には倒産件数が過去最多の81件に達し、前年の75件を上回りました。
以下に、主な倒産事例をご紹介します。
1. 神明畜産
- 倒産理由: 豚熱の発生、飼料価格の高騰などの影響。
- 状況: 2022年9月9日、民事再生法の適用を申請。
- 負債総額: 約574億6,900万円。
- その後: 兵庫県姫路市の企業バンリューがスポンサーとなり、再建を進行中。
2. イセ食品グループ
- ブランド: 「森のたまご」で知られる国内有数の鶏卵供給会社。
- 倒産理由: 過剰債務と資金繰りの悪化、新型コロナや飼料価格高騰が追い打ち。
- 状況: 2022年3月11日、会社更生手続きに移行。
- 負債総額: 約453億円。
- その後: 三井住友銀行グループのSMBCキャピタル・パートナーズとスポンサー契約締結後、事業継続を実現。
3. 長島ファーム
- 倒産理由: 豚流行性下痢(PED)の感染被害と飼料価格の高騰。
- 状況: 2022年3月2日、民事再生法申請。
- 負債総額: 約32億8,600万円。
- その後: スポンサー選定中。再建への努力を継続。
4. ワールドファームと関係会社
- 企業概要: 農産物の生産から販売までを手掛ける農業生産法人。
- 倒産理由: コロナ禍による外食産業の需要減少と債務超過。
- 状況: 2023年10月10日、破産手続き開始決定。
- 負債総額: 約34億9,000万円(3社合計)。
- 影響: ワールドファーム、ONLY JAPAN、つくば低温サービスの再建見込みは現時点で立たず。
5. アースワンファーム
- 企業概要: 三重県で米やもち米の生産を請け負っていた農業生産法人。
- 倒産理由: 補助金の不取得、資金繰り悪化、人手不足。
- 状況: 2024年6月5日、自己破産申請。
- 負債総額: 約2億円。
- その後: 再建の見込みなし。
倒産の背景と業界の課題
農業関連業者の倒産が増加している主な背景として、以下の要因が挙げられます:
- コスト増加: 飼料や肥料、エネルギー価格の高騰。
- 需要減少: 国内市場の縮小、コロナ禍による需要変動。
- 人材不足: 高齢化による担い手不足。
また、日本の農業業界は地域や業種によって影響が異なるものの、多くの企業が厳しい経営状況に直面しています。
まとめ
これらの事例からわかるように、
農業法人は儲かりにくい安い単価の「野菜」を扱っており、
経営基盤が「ぜい弱」であるケースが多いため、
市場価格の変動や疫病、
円安によるコスト高など外部環境の影響を受けやすいという課題を常に抱えています。
自己破産した企業の一部はスポンサー支援を受け、
再建への道を歩み始めていますが、極めて稀なケースです。
業界全体が持続可能な成長を遂げるためには、
新たなビジネスモデルの導入が重要と言えるでしょう。
現在サラリーマン勤めをしてて早期退職を機会に、
農業に本格的に取り組みたいという方は少なくないと思います。
しかしながらその不確実性を認識しないと人生設計が狂ってしまうかも知れません。
皆さんの周りに農業法人や野菜工場で働いてみたいという方がいらっしゃいましたら、
是非この記事の情報を共有していただき、慎重に検討するようアドバイス下さい。
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